夕凪の街桜の国 /こうの史代

1955年の広島を舞台にした被爆女性の話「夕凪の街」と、現代の東京での、被爆者を母に持つ女性の話「桜の国」という2本立て作品。全部で100ページと短く話運びも軽快で、さくっと読めます。

ですが、読み終わった後の深い余韻は、ここ数年味わったことがないくらい。まず、原爆被害の直接的な描写を控えつつ、読者に想像させる間接的な方法で、原爆によって人生をめちゃくちゃにされた衝撃が十分に表現されてるのが上手い。さらに、被爆しながらも愛する人と生きていこうとする人々をあくまで普通の日常生活を通して描いているのが、原爆との鮮やかな対比をなしていて素晴らしいです。原爆のような重い社会派テーマを語る際の、一つの見本となる出来栄えではないかと。

あと、話のなかにさらっと次の伏線を仕込む、物語展開のテクニックも相当レベルが高い。そのせいで何度も読み返したくなるわけで、これも読後に深い余韻を残すように作用しているような気がします。この作家の他の作品を読んでないですが、渾身の傑作と言っていいと思う。

こうの史代『夕凪の街 桜の国』 - 紙屋研究所:「うつくしく、かなしく、おそろしく、そして希望にみちた作品。」

21世紀型反戦マンガ - 深町秋生の新人日記:「静謐であり、柔らかな描写でありながら、とんでもなく残酷で罪深く、哀しく、これこそ感動のクロニクル。」

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

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