靖国問題 /高橋哲哉

戦没者の追悼に関する日本の伝統」という偽装を取り除けば、靖国神社は国家による戦争動員装置でしかないことを、靖国神社の成り立ちや主張から示す新書。靖国問題に関する左派、というか「国家のための戦争」嫌悪派のための基本的テキストかな。非常に読み易い所に、著者の力の入れようが感じられます。

1875年の台湾出兵から1945年の敗戦まで、70年間にわたって対外膨張を続けた帝国主義国の日本で、靖国神社という戦争動員装置が国家にとって必要なのは当然だと思うし、そこで土着的な宗教である神道を修正・利用したのもうなづけます。

で、さらに重要なのは、その偽装は時代によって異なるということ。今だと、「国際平和のための活動における死没者」という言葉で、米軍に対する軍事協力の結果としての戦死者を顕彰することになるわけです。実際、千鳥ヶ淵戦没者墓苑がそのように利用される準備は既になされている、と指摘しています。

というわけで、自分にとってはためになる本でした。ただ、一般の人に対して本書の主張を伝えるには、結構考える必要があるね。こうすれば良い、という分かりやすい提案があるわけじゃなくて、むしろ侵略戦争を反省するなら政治を変えるしかない、という主張なので。

靖国問題 (ちくま新書)

靖国問題 (ちくま新書)