南極の氷床は増えてない

田中宇という方の「地球温暖化のエセ科学」という記事に、次のような文章がありました。

温暖化で世界中の氷が溶けているかのような話になっているが、北極圏の氷は溶けているものの、南極圏南氷洋)の氷は1978年から現在までの間に8%増えている。

ののちゃんのDO科学で分かりやすく説明されているように、南極の氷の大部分は大陸上の氷床であり、大きく変動するとは考えられません。なので、温暖化の影響を受けずに増える可能性はあるけれど、そんな8%も増えるわけないです。そんだけ増えたら、地球の海面が10m近く下がります。で、引用先のTimesOnlIneの記事を見たら

While sea-ice has diminished in the Arctic since 1978, it has grown by 8% in the Southern Ocean.

こっちの記事のソースは不明ですが(1978年からだから衛星高度計のデータと思われる)、海に浮かんでいる海氷の話でした。南極大陸上の氷床が流れ出したら海氷は増えるような気もするし、これだけでは温暖化の影響は分かりません。


そこで、南極氷床の変動に関する論文を最近のScienceで探してみました。

2002年8月30日のRignot and Thomas(vol.297,p.1502-1505)は、主に衛星高度計データによる氷床変動をレビューしたもので、年に26立方kmの減少と見積もられていました。ただし、エラーバーも同じだけあって、減っているとは結論付けられないかな。

もう一つ、2006年11月24日のCasenave(vol.314,p.1250-1252)は、2002年からの衛星重力計による氷床体積変動の見積もりをまとめたものです。これによると、これまで3つの論文が出てて、1つはほぼ変化なし、もう2つは40と150Gt/年の減少とのこと(だいたい1Gt=1立方km)。

というわけで、これまでの研究から言えるのは、南極の氷床は増えてない、ということ。減少している、とはまだ言えない。南極全体の氷床は3千万立方kmもあるらしいので、減少していたとしてもせいぜい全体の十万分の1と、ほとんど誤差のような話で、そりゃ検出も難しいわけです。

ちなみに現在、氷床は南極とグリーンランドにしかなく、グリーンランドの氷床が減少してるのは確かのようです。

さらにちなみに、JAXAの「南極海の海氷変動」によると、南大洋の海氷の増加は雪の増加が原因と考えられるようです。

気候が温暖化すると、海に浮かぶ氷自体は融けやすくなりますが、一方で降水(雪)量が増加して海氷を厚くするといわれています。

追記:同じ部分への突っ込みが既にありました。なーんだ。
http://d.hatena.ne.jp/satohhide/20070223/1172209378

2007年3月30日に一部修正しました。