ラヴクラフト全集1 /H・P・ラヴクラフト

ラヴクラフト全集 (1) (創元推理文庫 (523‐1))

ラヴクラフト全集 (1) (創元推理文庫 (523‐1))

1923-31年に発表された怪奇ホラー短・中編4本を収録した全集第1巻。どれも良かったんですが、中でも「クトゥルフ神話」シリーズとして有名な「インスマウスの影」が面白かったです。1927年アメリカの港町「インスマウス」で、一人の旅人が遭遇する怪奇を描いた100ページほどの中編。

まず、魚の腐臭が漂う廃村間近の港町という舞台設定が怖い。タブーが多く存在する田舎独特の閉鎖感と陰鬱な雰囲気が執拗に描写されて、読んでるだけで気が滅入ってくる。

その港町で主人公はこの世のものではない現象を体験するわけですが、詳細かつ淡々としたその語り口も絶妙です。遠くに見たり、間接的に聞いたことからほのめかされるだけで、事件の全貌は決して明らかにされない。でも、だからこそ、決して人間が理解できないものが存在するという恐怖がいやーな感じで読後に残るんすよ。

さすがカルト的人気を誇ることはあると納得の作品でした。80年前に書かれたとは思えない。