高学歴ワーキングプア -「フリーター生産工場」としての大学院 /水月昭道

高学歴ワーキングプア  「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)

高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)

大学院の博士課程修了者の二人に一人が定職に就けない状況を告発した新書。内容の多くが博士課程を出た人達への取材を基に書かれており、実際に40歳で非常勤講師をしている著者の怒りがストレートに伝わってきました。同じ境遇にいる自分としては共感するところが多かったのですが、ここでは注目すべき論点を2つ紹介してみます。

1つは、博士課程と一口に言っても、内部でかなり階層化されていること。トップの旧帝大理系学部から、底辺の地方私立文系まで、その階層によって定職に就ける可能性が大きく違うことがリアルに説明されます(トップでも定職を確保するのは簡単ではないですが)。その意味で、例えば「ポスドク問題」と問題設定してしまうと、現状の一番深刻でかつ本質的な部分を見過ごすことになるのかな、と。

もう1つは、大学院重点化政策の目的です。1991年以降、大学院重点化によって院生数は約4倍に増えました。その一方で、アカデミックにおけるパーマネントのポストはほとんど増えていなくて、むしろ助教への任期制導入など雇用は不安定化しているのが現状です。

だから、文科省が掲げた「一流研究者の育成」などは建前に過ぎなかった。本音は、今後の少子化に備えて、自身の権益に直結し、また、学費という財源でもある「学生数」を水増しすることが文科省の目的だったと指摘します。つまり、大学院生は金づるとして意図的に増やされた、と。まあ、それが当初から意図されたかどうかは分かりませんが、確かに、行政がそのような易きに(目をつぶりつつ)流れるのはあり得る話です。

このような興味深い指摘もある一方で、本書で提案される博士問題の解決策(政府に頼るなという話)には個人的に不満だったりするのですが、それでも、博士問題に関する現状認識としては出発点となるべき内容だと思ったっす。*1

*1:解決策に関して思うところは色々あるのですが、まずは政府に実態調査させないとなあ。