1000年後の気候予測

話題になっている地球温暖化予測に関する論文を読んだので、紹介してみます。

タイトルは「Irreversible climate change due to carbon dioxide emissions」で、和訳すると「二酸化炭素排出による不可逆的な気候変動」。*1

で、論文に入る前に、予備知識としてCO2濃度の予測を確認しておきます。


IPCC第3次評価報告書第1作業部会報告書fig.5

世界の産業構造によっていくつかのシナリオが考えられていて*2、このままの経済成長路線を想定したのがA1Bシナリオ(赤実線)。2100年に700ppmを超えると予測されています。これを頭に入れておいて下さい。

それでは本論文ですが、これは、気候モデルを使って*3、21世紀中のCO2排出が1000年後にどのような影響を与えるかを調べたものです。特徴的なのは、CO2排出がピークに達したその後は全く排出しない、というシナリオを想定していること。技術革新によって一気に脱化石燃料できた場合を考えているということかな。*4

まず、その時の大気中CO2濃度の時間発展がこちら。(以下、図は全て論文からの転載。)

ピークの濃度が450ppmから1200ppmまで6ケースの実験をしています。一番下の破線が産業革命前の値。この結果は、CO2を全く排出しなくなって900年後(3000年)でも、大気中のCO2濃度は元にはあまり戻らないことを示しています。*5

各ケースにおける平均気温の上昇を示したのがこちら。

ピークが750ppmのケースを見ると(上から3番目)、約2.5℃の気温上昇で落ち着いていて、1000年後にもほとんど下がりません。

海水の熱膨張に伴う海面上昇を示したのがこちら。*6

ピークが750ppmのケースでは1000年後に0.75m上昇です。海面水位はCO2排出が止まった後も単調に上がっていきます。*7

1000年後の各大陸における乾季の降水量の減少を示したのがこちら。今までの図と違って、横軸がピーク時のCO2濃度、縦軸が降水量減少をパーセントで示しています。


地域にもよりますが、750ppmのケースだと10〜20%減少します。図中の黄色い幅は過去の大干ばつ時における降水量減少であり、温暖化に伴う降水量減少のインパクトの大きさが分かると思います。

論文最後の議論では、地球温暖化による経済的損失を評価する際には、21世紀といった時間スケールでは短すぎ、少なくとも千年スケールで評価するべきだと主張しています。ま、妥当な結果と結論だと思います。そして一刻も早い脱化石燃料化社会を目指した方がいい気がしますね。*8

●関連記事: 北極の氷は融けているよ

*1:Solomon et al. (2009), PNAS, 106, 1704-1709, http://www.pnas.org/content/early/2009/01/28/0812721106.abstract

*2:将来気候の予測 - 環境再生保存機構

*3:IPCCの第4次報告内に採用されている気候モデル全てを使ったマルチ・モデル・アンサンブル。すげえな。

*4:惑星工学的なCO2濃度の低下技術は考慮されていません。

*5:以下の結果に関して、理由は論文中で議論されています。

*6:不確定要素が大きい氷河の融解やグリーンランドと南極の氷床融解は考慮されていない。影響としてはこちらの方が大きい可能性が高い。

*7:海洋の深層混合が原因

*8:論文の紹介記事では「地球温暖化を防ぐためには温室効果ガスの削減が必要とするこれまでの考え方をきっぱりと切り捨てた」とかあるんですけど、どこに書いてあるんだ。